− 望 −
Contents
◆ 1月1日を迎えて/KAWAGUCHI Yuko
◆ 「望」/HIRAI Yuta
◆ わたしのねこ/MIYAKITA Hiromi
◆ 望/MORI Atsumi
1月1日を迎えて
美大の受験に、「鉛筆デッサン」があった。
受験としての鉛筆デッサンに話題を絞って取り上げると、そこには、点数を稼ぐためのさまざまなスキルがある。与えられるモチーフは平等で、画用紙の大きさも同じ。その中で、“自分の実力をどうアピールするか”を考える。中でも特に重要なのは、「構図」だと思う。
例えば、受験で出されたモチーフが、「ペットボトル」「柄が長いハケ」「紙テープ」「レモン」「布」だった場合。
ペットボトルは高さを表現できるので、手前気味に配置。かつ、入っている水で光を表現。
柄が長いハケは、立てかけるなどして空間と奥行きを表現。机に落ちる影の位置も重要だ。
紙テープは、必ずテープの部分を引き出し、これまた前後をつけ奥行きを出したり、モチーフの間をはうように配置したりして、全体のまとまりをつくる。
レモンは、球体の表現ができているかの確認なので、質感を出しながらそつなく描く。
布は“ふわっ”と置き、凹凸を出すことで、質感の表現力をアピールする。
…こんなことを考えながら、「構図」を組み立てていく。
このことは、今の私の「デザイナーとしての立ち位置」によく似ているなと感じる。
DTPの時代。望めば誰でも「Mac」という道具が手に入る。ソフトを買えば、グラフィックから動画、アニメーションまで、自由に作品を生み出せる。与えらるモチーフは、平等なのだ。だからこそ、“何を生み出せるか”を模索しなければならない。
新社会人だった頃、先輩に文句を言ったり、一丁前にデザイン論を語ったりしていた。未熟さに気づけていない典型だったが、案の定3年もすれば、デザイナーという職業の本質がようやく理解できるようになってきて、その時はじめて、いかに自分が無知だったかを知ることになる。
未熟さを知ることは人生に必要な経験だ。無知を知り、学ぶべきことがみえた時、やっと成長がはじまるんだと思う。
“何を生み出せるか”
デザイナーである以上、これが一生の課題だ。
もちろん、仕事への評価基準は人それぞれあっていいのだが、今の私の場合は、「社会貢献」だろうか。30代後半。そろそろデザインの本質である「社会のために何ができるか」という意義と真剣に向き合えるようになってきた。マズローが唱えるところの、「自己実現の欲求」だ。今、それができることを幸せととらえ、これから先、向き合っていきたいと思っている。
2023年が始まった。
1月1日にして最終号のテーマに『望』を掲げたのは、未来への「希望」に他ならない。「向き合うべきだ」だという自分自身へのメッセージでもある。
どんな一年が待っているのだろう。
どんな未来が待っているのだろう。
手に入れたモチーフを最大限いかせるかは、自分次第。
とりあえず、「やる」しかないのだ。
KAWAGUCHI Yuko
「望」
“empathy” という言葉を、
好きなバンドの曲で知りました。
自分と違う価値観を持っている人が、
何を考えているのかを想像する力のことを言うのだそうです。
他人の気持ちの場所に、
自分の想像力を立たせられる力。
自分に足りていなかったもの。
そのせいで、色んな人を傷つけたり、
悲しませたりしてきてしまったこと。
その欠如部分に、
その言葉がぴったりとはまったような気がしました。
未熟な自分が生んでしまった蔑ろや損ないを、
自分で認識した時から、
現在の自分は始まったように思います。
せめて、残りの時間は、
ちゃんと他人の気持ちを理解できるよう、
そこに想像力を使っていきたいと思っています。
そんな自分になりたいと思っています。
そして、出来ることならば、
自分とは違う誰かの立場に、
自分の想像力を立たせられることが交換し合えるような、
そんな世界になることを望んでいます。
自分とは違う誰か、には、
未来を生きる人たちも含まれます。
動物という生命体である以上、
本能的に仕方がない部分はあると思いますが、
でも、自分さえよければ、になるべく抗いたいです。
それは、やっぱり、
自分たちには言葉があるから、
そう思えるのではないかと思います。
暴力ではなく、想像力を信じたいです。
そのためには、まず自分から。
一手を先に、一歩を先に、行動したいと思います。
まずば手の届くところから、あなたを思い遣って、
出来るだけそんなふうに生きていきたいと思います。
このMOONという場所に言葉を置かせてもらい、
出会うことができた皆さま、大変お世話になりました。
とても偏りのある人間ですが、
悪意なく、本心を書いてきたつもりです。
お付き合いいただきまして、ありがとうございました。
追伸
川口さんがこの場所に誘ってくれたおかげで、
気づくことができたことがいくつもありました。
ありがとう。感謝しています。
HIRAI Yuta(CRAB WORKS)
https://crabworks.jp
わたしのねこ
コトちゃんは今年17歳になります。人間だと84歳の高齢猫さんです。お家のなかでのんびり元気に過ごしていますが、以前よりぼーっとしていることも多く、よく水を飲みます。ここ2ヶ月ほどトイレの量が増えていて、猫は腎臓が弱くなると言われるので、先月動物病院で検査しました。
結果はほとんど問題ありませんでした。私が生年月日を書き間違えて、6歳の猫さんと間違われてしまったからなのか、2、3ヶ月検査を続けて様子をみてからでないと判断できないと言われました。先生もスタッフの方も優しくて丁寧に対応してくださったのですが、何か腑に落ちないものを抱えて帰りました。
コトちゃんは自分の身体におきた変化に気がついたのでしょう。私もそれを察知して、命に限りがあることに直面し混乱しました。これからまだ何年も元気に過ごすかもしれないし、それは分かりません。動物病院を訪れたのち、もやもやを抱えて過ごしてきましたが、頭と心の整理ができてきました。私のねこの病気の治療よりもいかに今まで通り痛みなく、安心して日々を過ごすために何をすれば良いかを知りたいのです。安らかに最期を迎えて欲しいとのぞむだけです。
MIYAKITA Hiromi
https://miyakitahiromi.com
望
望みは何かと聞かれたら。
「表現したい」という願望は、常にどこかにあった。
別に、何をというものがあったわけではない。けれど、歌やダンス、絵、小説、スポーツ、それぞれの手段で、自分の内にあるものを表現している人を見ては、羨ましくて仕方がなかった。
やろうと思えば、自分にもいくらでもその手段はあっただろうし、今の時代、ネットを駆使すれば、発表する場だって作れただろう。
けれど、誰が見るんだろうとか、結局、自己満足でしかないよなと考えては、ただただ羨むだけの日々だった。
そんな時、このMOONに誘ってもらった。
それはまさに望外の喜びで。
これまでに書いたものを改めて読み返すと、拙いなとは思うけれど、日々感じたこと、体験したことを文章にする時間は楽しくて、誰のためにもならない内容だったとしても、間違いなく、私にとって心の支えだった。
やりたいと思えることが存分にできる場の素晴らしさを教えてもらったし、願望の叶え方を教えてもらった。
望みは何かと聞かれたら。
おいしいものが食べたい。
仲のいい友達と楽しくお酒を酌み交わしたい。
どこかへふらりと旅に出たい。
きれいな景色を見て、その土地のおいしいものを食べて、温泉に浸かりたい。
海外の国々にも行ってみたい。
久しぶりに小説を一気読みしたい。
好きなバンドのライヴにも行きたいし、気になっている美術展もあるし、舞台やミュージカルも色々と観てみたい。
一目ぼれした素敵な指輪を手に入れたいし、それが似合う自分になりたい。
やり切ったと言えるような仕事がしたい。
誰もが一目置くような、かっこいい大人になりたい。
満たされたり、飢えたり、月の満ち欠けのように繰り返しながら、たくさんの望みを抱えて、日々生きている。
何者かになりたいと願う自分もまだどこかにいるし、誰かの姿を羨んでは、自分もこんな風になりたいと焦ることもある。
けれど、最近、ふと、力を注げる仕事があって、自分の稼いだお金で欲しいものが買えて、やりたいことができて、それに付き合ってくれる友達がいて、そして、こうして表現する場を与えてもらっている今の自分の状況に、「なんて満たされているんだろう」と感じた。
きっとまた、飢えるときも来るだろう。
けれど、叶え方を教えてもらったことは大きいし、自分の持っているものに気づけたことも大きい。
さあ、望み高く生きよう。
MORI Atsumi
元・丹後在住。現在は京都市内でデスクワークの日々。
編集後記
創刊号では、「#FFFFFF」をテーマ色に選びました。その中で私は、「すべては、表裏一体」と書きました。「夜空に輝く月にも、私たちには見せない裏の顔がある。そしてそれは、どちらも真理である」と。
MOONを通して、その思いを少しは表現できたかなと感じています。結びを「#000000」とすることで、自分の中で、うまくまとめられた気もします。
平井くん、裕美さん、森ちゃんからの最終原稿を読みながら、ただただ感動している大みそか。除夜の鐘がなんとも切なく、でも妙に心地よく、心に響いてきます。
毎号、本当に楽しみながら言葉をくれた平井くん。私も、平井くんのような“あたたかい気持ち”が持てる人間になりたいです。誰かをちゃんと思いやれる生き方をしたいです。
裕美さんは本当にテキパキしていて、いつもおいしいご飯を食べさせてくれて、いろんな相談にものってくれる。育ててもらっている感覚です。年末の合宿で気合いを入れてもらったので、その刺激を忘れずに、今年は「動く」年にしたいです。
洗練されていてスマートで、それでいてユーモラス。森ちゃんの文章を読むと、「言葉って美しいな」って感じることが多いです。丹後在住ではないのでたまにしか会えない分、MOONで近況を知るのがとっても楽しみでした。今年はもっと一緒に楽しいことができそうな予感がしています。
一緒に楽しい時間を過ごしてくれて、本当にありがとうございました!
最後に、MOONを読んでくださったみなさま、本当にありがとうございました。これまで続けてこられたのも、みなさまのあたたかさを感じていたからに他なりません。感謝申し上げます。
新しい年を迎え、また何かを生み出したい気持ちでいっぱいです。自分にできることをやって、前に進んでいきますので、今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
2022.12.31 → 2023.1.1
MOON編集長 川口優子
追伸
2月1日、満を持して「MOON特別編」を出す予定です。
お楽しみに!