MOON vol.28 / 旅 / #293833

− 旅 −

Contents

◆ Journey/KAWAGUCHI Yuko
◆ 「旅」/HIRAI Yuta
◆ 想像を膨らませているときが楽しい/MIYAKITA Hiromi
◆ 旅/MORI Atsumi


Journey


私のインスタのユーザーネームは「journey」だ。
当時好きだったアーティストの曲のタイトルから拝借したのだが、「人生は長い旅のようなもの」という表現がぴたりと当てはまっていた心境に、Journeyというワードが浮き上がってみえた。インスタのフィード画面は、人生のアーカイブでもある。

ロンドン、パリ、ローマ、ヴェネツィア、アムステルダム…。美大の卒業旅行で、ヨーロッパのいろんな都市を巡った。大英博物館、ヴェルサイユ宮殿、ルーヴル美術館、コロッセオ、ポンペイ遺跡などなど、美大生用のツアーのようなものだったので、名所ばかりを巡った。ロンドンの夜景は綺麗だったし、ムーラン・ルージュのショーは華やかだった。ジェラートを食べながら、トレビの泉を散歩したことも思い出す。毎日があっという間で、今思えばとっても贅沢なカリキュラムだった。できるならもう一度、同じ14日間を味わいたい。

「生きるかぎりは歌いながら行こうよ。道はそうすれば、それだけ退屈でなくなる。」
これは、ローマ古典期の代表的詩人、ウェルギリウスの詩だ。

人生を旅と例えた時、常に登り坂の途中でありたいと考える私は、どうしてもこの「歌いながら」が苦手である。好きなことを仕事にしているし、努力を努力と思わないほど、やりたいことだけやっている。それ故に、「歌いながら」がうまくできない性格である。このままでいいのかなと、問いかけてしまう自分がいる。自分が登っている坂に、自信がもてなくなることがある。

紀元前の詩が、現代を生きる私に「そうありたい」と思わせてくれるのは、ウェルギリウスが天才だからだろうか。それとも、想像することしかできない歴史の雄大さが、詩に「ロマン」を感じさせてくれるからだろうか。

ウェルギリウスが語りかけてくれているのは、きっと、「前向きな解釈」なのだろう。人生という長い旅ではいろんなことが起きるけど、それを前向きに解釈することができたら、人生はもっと楽しくできるはず。そんなメッセージ。

フィード画面を眺め、私の「旅」を思い返す。変わり映えしないアーカイブに、目をつぶりたくなる。

ヴェネツィアで買ったライトブルーのピアスが、小さなショーケースで光っている。
そろそろ、歌をうたわなければ。


KAWAGUCHI Yuko


「旅」


いつの間にか始まっていたこの旅は、
行き着くところは誰も同じようだし、
いつか終点に辿り着くのだということも決まっているようなので、
特段寂しさは感じない。

だからこそ、何処に行くかではなく、
誰と行くかを大事にしたいと思っている。

出会いを求めることには不精だけど、
出会ってしまった人には忠実でいたい。
それでも、心通じない相手とは別れながら、
心通い合った人とはいい時間を共有したいと思って生きている。

旅の最中、
出来れば自分はあなたをなるべく笑わせたい。
そして、いつか自分の旅が終わった時、
思い出し笑いをしてもらえたら。

そのために、自分は仕事をしていたいと思う。
ずっと忙しくしていたい。


HIRAI Yuta(CRAB WORKS)
https://crabworks.jp


想像を膨らませているときが楽しい


「コロナが落ち着いたら、どこに行ってみたい」とたまに質問されます。

仕事がら旅をすることが多いけれど、どこかに行くということは、いつも人に会いに行くこととセットになっています。旅は誰かに会いにゆくことが楽しいのかもしれません。アメリカに住んでいる時に、外国人留学生のための英語のクラスで同級生だった友人から十数年振りにメールが届きました。ソビエト連邦の崩壊後に家族とともに米国に渡った彼女はとても優秀で、今は結婚して娘もいて大学で教鞭をとっているそうです。阿呆な私とよくつきあってくれるなと当時は思っていたけれど、同じ歳のアジア人だったから、気兼ねなく付き合えたのでしょう。手巻き寿司をご馳走したこともあったし、手作りマトリョーシカをプレゼントしてくれたりした。そんな日々を思い返し、かけがえのない時を過ごしたことに気づかされます。私のダンスもよく観に来てくれたので、今の私を見て欲しいですね。

昔見た映画に影響を受けて「その地を訪れたい」という旅の動機もありますね。私の場合だと、たとえばウォン・カーウァイ監督の同名の映画の影響で、南米アルゼンチンの「ブエノスアイレス」を訪れてみたいとか。テオ・アンゲロプロス監督「ユリシーズの瞳」に倣いバルカン諸国を巡り、南欧の歴史を身体感覚として理解したいとか。

それにしても、コロナやウクライナ侵攻の影響で旅が難しくなりましたね。国外に出るのは面倒なので、国内で楽しめる場所をリストアップするのも悪くないですね。私は懇意にしている四方幸子先生の影響でフォッサマグナ・ミュージアムに行ってみたいです。そのほか、昨年日本三大盆踊りの西馬音内盆踊りをご指導いただける機会があり、コロナで中止されていた盆踊りも今年から再開されたので、羽後町(秋田県雄勝郡)を再訪したいです。地方暮らしではどうしてもできないことの一つに、近隣に大きな専門の図書館がないので美術の文献を探すのが難しいことが挙げられます。普段暮らしている土地に温泉も御馳走もあるので、逆にそのようなリサーチを含ませた旅を考えたくなる昨今です。

コロナ騒ぎが始まってからもうすぐ3年が経ちます。そろそろ心身の扉を解放して、みんながそれぞれの旅を始めて欲しいと願います。


MIYAKITA Hiromi
https://miyakitahiromi.com



今年は、この2年ほどを取り戻すように旅に出た。
鎌倉・横浜、東京、沖縄、再び東京、そして、合間に何度か丹後へ。
5月から9月までずっと、毎月一度は泊まりでどこかへ行く予定が入っていて、時に、一週置きに旅行鞄に荷物を詰めて出掛けることもあったスケジュールに、息切れしないかと不安もあったけれど、とても張りがあって充実した日々だった。

元来、腰の重い人間なのだけれど、これまでから、遠くに住む友人に会うためとか、ライヴに行くためとか、何かにかこつけては、なんだかんだ旅に出て来た。
そういう時は、一人旅になることも多くて、この一人でする旅がまた好きだ。

鉄道に乗って、音楽を聴いたり本を読んだりしながら窓の外をぼーっと眺めている時の、程よく頭が空っぽになる感じ。
見知らぬ地で、その土地の歴史や風土、その場所に暮らす人の日常を感じながら、よそ者の自分を楽しんだり。
史跡の解説をじっくり読んでみたり、気になる美術展を探したり、おしゃれなスポットを散策してワクワクしたり。
もちろん、おいしいものは外せないし、ふらっと入ったお店で常連さんと仲良くなったりなんかしたら、その旅は大成功と言っていい。

不思議と気が大きくなりがちな旅先で、誰の反応をうかがうでもなく、気の向くままに行動してみると、自分の心がどういう時に動くのかがよくわかる。
そうして旅から帰ってくると、自分の中に新たな引き出しがたくさんできているのを感じるし、旅がきっかけで出会った趣味や、自分はこういうのが好きなんだなと気づいたものも結構ある。
今年行った旅でも、たくさんの興味の芽が芽生えた。最近は、そうした芽をもう少し掘り下げて、根を張らせていきたいなとも思っている。そのための旅もまた楽しそうだ。
自分自身と旅をする機会を、これからも定期的に持っていきたい。


MORI Atsumi
元・丹後在住。現在は京都市内でデスクワークの日々。


編集後記


全国旅行支援なんてのもはじまって、この冬、丹後への旅行者も増えてくれるかなと期待する日々。最近は仕事で「観光」のチラシやWebをつくることが多いので、もっぱら頭はそのことばかり。各地の観光雑誌をパラパラ見て、「こういう誌面デザインもありだな」なんて考えながら、「地域限定」と強調された、おいしそうなスイーツに目がとまる。

一年先の旅の予定を入れた。私にしては早すぎる。
でも今は、それがとっても楽しみである。

2022.11.1 KAWAGUCHI Yuko

追伸
来月号で、お知らせがあります。

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