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Contents
◆ エンジェルに誘われて/KAWAGUCHI Yuko
◆ 「7」/HIRAI Yuta
◆ 十二歳臼歯の虫歯/MORI Atsumi
エンジェルに誘われて
7日生まれの私は、昔から、“7”という数字が好きだった。“ラッキーセブン”という言葉もあり、縁起がよさそうなところも気に入っている。西洋においては、7という数字は神聖なものらしいし、仏教だって、“初七日”のように、7日ごとに法要が行われる。777は大当たり!響きだけで、幸せになれそうな気がする。
「エンジェルナンバー」という言葉がある。「この数字よく見かけるな」とか「時計を見たらいつも同じ時間だった」というような、「偶然意識した数字」をそう呼ぶらしい。エンジェルナンバーは数字ごとに意味があるそうで、それを解説しているサイトもいくつかあった。占いの類なので、のめり込んでしまう人もいるかもしれない。私は、スピリチュアルな世界はあまり興味はないのだが、“数字のもつパワー”というものは少し「分かる」気がしている。
私にも、エンジェルナンバーがある。その数字が何かはあえて書かないが、出くわすと思わずテンションが上がる。数字の意味には興味がないので調べていないが、私にとってエンジェルナンバーは「ラッキーナンバー」のような扱いで、その数字に出合うと、四つ葉のクローバーを見つけたときのように、幸運をもたらしてもらえるような感覚になる。先日受けた健康診断の受診番号がそれだったときは、「結果は良好かな」と、ほぼ根拠のない自信を得たものだ。
数字には、不思議な魅力がある。数学者や物理学者たちを魅了するさまざまな定理には、「ロマン」という言葉がふさわしい気がするし、そうでない私にとっても、潜在意識をくすぐられる。誕生日だから、“7”が好き。これでいいのだ、これがいいのだ。
今日から7月。私のエンジェルナンバーも、実はこの月にある。
天使のささやきを楽しみにしている。
KAWAGUCHI Yuko
「7」
キャッチボールの相手をしてほしい、と頼まれた。
83歳の男性に。
亡くなったばあちゃんの弟。
野球と共にあったような人生のひと。
おっちゃんと呼んではいるけど、
もうおじいちゃんだ。
なぜ、キャッチボールに誘われたかと言うと、
ばあちゃんやおっちゃんの
末の弟にあたるおっちゃんが企画したOB野球の試合で、
始球式をやってほしいと頼まれたからだそうだ。
なんとか、本番までに、
マウンドからキャッチャーまで
ノーバウンドでボールを投げられるようになりたいらしい。
始球式を用意したおっちゃんも粋だし、
それを受けたおっちゃんも粋だけど、
少々無謀な挑戦だと思う。
だけど、おっちゃんは、挑戦に燃えた。
ならば、自分もそれに乗っかろうと思った。
週に1度、30球ほどのキャッチボール。
キャッチボールと言っても、
自分は球を転がしておっちゃんに返す。
場所は、もう今は廃校になってしまったけど、
おっちゃんが通っていた小学校のグラウンド。
7歳のときから、そのグラウンドで進駐軍の人たちと
野球をしていたらしい。
最初の頃は、投げた後に何度かこけた。
こけたら自分で立ち上がりにくいし、
怪我をしないか本当に怖い。
数球投げて、息があがったら休憩。
おばちゃんに飲み物をもらって、
野球の思い出話を聞く。
そしてまた数球投げる。
マウンドからツーバウンドで届くボールは、
毎球ほとんど横に逸れたりすることなく、
まっすぐ自分のほうに届いた。
さすがだなと思った。
週を追うごとに、
ボールはワンバウンドで届くようになり、
最後の練習では、ギリギリノーバウンドで届いた数球があった。
本番は7月3日。
人生最後のマウンドになるかもしれない。
自分は仕事で見に行けないけど、
思いっきり野球を楽しんでほしいと思う。
そして、またあの大きな声で、
その時の話を聞かせてもらいたい。
HIRAI Yuta(CRAB WORKS)
https://crabworks.jp
十二歳臼歯の虫歯
少し前から、ものを噛んだ時に左上の歯が痛むようになった。
しばらくはそちら側で噛まないようにして耐えていたけれど、一向に治まる気配がないので、重い腰を上げて歯医者を予約した。
痛みの原因は、前から7番目の十二歳臼歯にできた虫歯だった。
虫歯になった部分を削りましょうと、治療用の椅子を倒される。数年前に親知らずは抜いたものの、虫歯の治療なんて小学生以来じゃないだろうか。
先生が器具を用意するのを待つしばしの間に、不安と緊張がむくむく膨れ上がる。
どんなことをされるんだっけ、痛いだろうか、えっ、すごく怖くなってきた……。いい歳をして、こんなにも素直に怖いと思うことがまだあるなんて。あぁ、歯医者なんて嫌いだ……。
そうして、どうしようもない恐怖にいっそ身を委ねながら治療を受け、歯とともに精神もゴリゴリに削られたような気持ちで、とぼとぼと家に帰った。
「いい歳をして」と言ったが、7月になって誕生日が来れば、30歳になる。
30歳なんてまだまだとも言われるかもしれないけれど、そろそろ「いい歳」という言葉を使い始めてもいい頃なんじゃないかなと思っている。
30歳って、なんだか大きい。
巷で言われる「30までには~」という言葉に煽られてるなぁと思いながら、自分でも散々その台詞を吐いてきたし、勝手に何かのリミットのように感じて、焦ってきた。
でも、いよいよ目の前に近づいてきて、「30までには」と言っていたのが、「もう30だし」と言うようになると、「だから~しよう」という言葉が続くようになった。
もう30だし、ずっと引きずっていたことをいい加減片付けて。
もう30だし、一生ものと言われるようなジュエリーを眺めてワクワクしてみたり、友達とちょっといいごはんを食べに行ったり。
はたまた、もう30だし、そろそろ体を鍛え始めたいし、知識や教養といった中身の部分も充実させたい。
思えば、少し前まではまだまだ若者でいたい、いなくちゃと思っていたような気がするけれど、焦りや諦め半分に「もう30」と言い出したら、素敵な大人になりたい、という気持ちが湧いてきて、大人になることを楽しんでいる自分がいる。
情けないほどに怖いと思った歯医者も、でも、そんなにも怖いと思えるものがまだあったんだ、と半ば面白がってその恐怖に身を委ねていて。
これからどんどん歳をとれば、どんな感情もそんな風に客観的に見るようになっていくのかな、とちょっと寂しくなる一方で、そのどこか余裕のある感じを楽しいとも思っていて。
「30までに」と思い描いていた姿にはなっていないかもしれない。でも、「もう30」を便利に使いながら、いいことも悪いことも飲み込んで、素敵な大人になるために邁進していく所存です。
MORI Atsumi
元・丹後在住。現在は京都市内でデスクワークの日々。
編集後記
“一週間”という単位も、幼少期から身体に刻み込まれているリズムだ。土日休みの仕事をしている私は、学生時代と変わらない時間感覚で、7のレールに乗っている。月曜がきたら会社に行って、火、水、木曜と仕事と向き合い、金曜は、仕事の締めと休みへのソワソワであっという間に過ぎていき、そして、7日の中で一番好きな土曜の朝を迎える。
コーヒーを飲みながら、ぼーっと窓の外を眺めているのが至福のときだ。そのまま休みはあっという間に過ぎていき、日曜の夜はブルーマンデー症候群に襲われる。
今日から今年も後半戦。このレールが錆びつかないよう、ちゃんと磨いていかなくちゃ。
2022.7.1 KAWAGUCHI Yuko