− この時代の「白」−
Contents
◆ lead the life of a nature lover /KAWAGUCHI Yuko
◆「白」/HIRAI Yuta
◆ メモを探す/MIYAKITA Hiromi
lead the life of a nature lover
KAWAGUCHI Yuko
「白」
私たちは心の余白を失くしてしまった。
感染症により、
世界中で多くの人が亡くなっている。
非常事態による経済危機の中、
自ら命を絶った人もいる。
自粛生活のなか夫婦で呑み始めたはずが、
夫の収入が減ったことがもとで口論になり、
妻に暴行、殺害してしまった事件もあった。
倒産、廃業、解雇、失業、
明日をも知れぬ不安のなか、
今を生きている人がたくさんいる。
想像力が試されているように思う。
誰かのことを、自分のことのように思えるか。
現在のことを、未来のことのように思えるか。
私たちは、同じ世界を生きていく。
再び余白を取り戻す。
同じ場所にいては、それはもう叶わない。
どう変わっていくかが問われているんだろう。
そのためにまず、
疑いもしなかった常識というものを、
当然のものと受け入れていた規則や仕組みを、
いったん自分の中で
真っ白に戻してみませんか。
勇気がいる場合は、
その不安も誰かと共有してみませんか。
心配に思っていること、
聞かせてくれませんか。
変わったほうがいいと思うもの、
変えないほうがいいと思うもの、
これからのことについて、
気軽に話をしてみませんか。
世界をまた新しい色に塗り替えるために、
私たちの内側の小さな白を持ち寄りたい。
想像力を、共有したい。
自分は、そんな小さな、
決意の白を持つことにする。
HIRAI Yuta(CRAB WORKS)
https://crabworks.jp
メモを探す
これまでの芸術活動で常に白いノートにアイデアや発見を綴ってきました。そのほとんどは棚や机の引き出しに仕舞われて、静かに息をしているだけです。過去の言葉を探す旅に出て、もう一度紡ぎ直してみようと思います。
手始めに「西洋近代ダンスの歴史について」というメモを見てみましょう。今という時代を語るためにその前のことを紐解いてみたいと思います。西洋ではイタリアを起源に持つバレエが発達しました。19世紀、バレエを劇場に見に行くことは、花形ダンサーのダンスを楽しむことでしたが、20世紀が始まる頃に登場したイサドラ・ダンカンやヴァーツラフ・ニジンスキーなどにより、ダンサーが振付けられた踊りを踊って楽しませることから、自ら新しいダンスを産み出すという運動が生まれました。その後ドイツとアメリカでダンスの再定義が進み、振付家が提示するダンスの作品性に注目されるようになりました。この時代のダンスをモダンダンスやノイエタンツと呼びます。日本ではこの頃のドイツのダンスに色濃く影響を受け、舞踏という新しいダンスが生まれました。1960~70年代、アメリカ・ニューヨークでは前衛芸術家が活躍する時代となり、ジャドソン・チャーチでは身体表現のさまざまな実験が繰り広げられ、ポストモダンダンスという時代が誕生しました。ニューヨークで華開いたポストモダンダンスの種はフランスに移植されコンテンポラリーダンスとなり、20世紀後半から現在にかけて芸術におけるダンスをコンテンポラリーダンスと呼びます。
私は90年代中頃にアメリカの大学でダンスを学んだこともあり、ニューヨークのポストモダンダンスに影響を受け、そのメチャクチャなアイデアや試みの裏側にある純粋で真面目な芸術家達の軌跡に敬意を持ってきました。次回は20世紀アメリカにおけるダンスの動き(振り)を産み出す方法の変遷についてお話したいと思います。
MIYAKITA Hiromi
https://miyakitahiromi.com
創刊号に寄せて
創刊号の表紙には、「花と水滴、蜘蛛の巣」の写真を採用しました。撮影したのはゴールデンウィーク。外出自粛の中、雨露に濡れキラキラと輝く花に、生きる希望を感じました。
そしてこの輝きが、どことなく「月のクレーター」のようにも見えてきました。それも、私たちが普段目にすることのない、「裏側のクレーター」。
すべては、表裏一体。光には影がある。美しく輝く月にも、私たちには見せない、裏の顔がある。
でもそれは、どちらがいい、というものではなく、どちらも真理なのだと思います。
私は、この『MOON』の中で、光と影、その両方を素直に表現できたらと思っています。
白と黒。まずはこの創刊号で、思いを形に。
2020.8.1 KAWAGUCHI Yuko