− カウント −
Contents
◆ カウントダウン/KAWAGUCHI Yuko
◆ 「カウント」/HIRAI Yuta
◆ 一度も訪れたことのない土地の人々の暮らしを慈しむ/MIYAKITA Hiromi
◆ カウントダウン/MORI Atsumi
カウントダウン
40歳までのカウントダウン。
あと約3年半。カウントするには早すぎると言われたけれど、わたしとしては、そろそろ備えてもいい頃かなと思う。
1年では短すぎる、5年では長すぎる。何か目標を掲げるのに、3年というのはちょうどいい期間ではないだろうか。
思えば、30歳になるときもそうだった。
「何かが変わるかもしれない」
そんな思いで誕生日を迎えた。
20代の頃想像していた自分とは違うかもしれないけれど、それなりに充実した日々を送っているつもりだ。毎日をただ一生懸命生きているだけだが、「成長したかも」と思える瞬間がたまにある。そんな日々に感謝したい。
わたしは、わたしが40歳になるとき、どんな「わたし」でいたいだろうか。
相変わらずデザインの仕事に携わっていたいし、その上で、今以上にできる幅を広げていたい。
今は、クライアントから仕事を受けて提案するだけだが、これからは、誰かに何かを提案できる人になっていきたい。もちろん、デザイナーとして誰かに寄り添うことも続けたいが、自分の知識や行動を通して、誰かのためになるサービスもやってみたい。今はまだ、本当に願望でしかないのだが、身近にそれを叶えている先輩や、独立して自分の夢を追い続けている友達をみていると、自分もそうなりたい、と強く思えてくる。
「お世話になった人に恩返しをしたい」
先輩が言っていたその言葉の意味が、だんだん分かるようになってきた。
でも、ひとつだけ。
コロナになって、死を今まで以上に身近に感じるようになった。
いつ死ぬか分からない状況で、わたしたちは生きている。
昔みたドラマで、印象に残っているセリフがある。
「将来のことを考えるのはとても大切なことです。でも将来を考えすぎて今を見失ってはいけないんじゃないでしょうか?」(引用)
自分がどうなりたいかを描きながらも、毎日を大切に生きることを、忘れないでいたい。
夏の終わりを迎えるころ、わたしは毎年、感傷に浸る。空の色、風の音、虫の声、草の匂い、、、自然がそうさせるのだろう。
40歳へのカウントダウンの中で、少しずつでも、自分なりの答えが導き出せていたらいいな、と願う。
KAWAGUCHI Yuko
「カウント」
自分であり、あなたであるような、
ひとつ、ひとつの命が、
理不尽な過ちの上に、
ひとつ、ひとつと遣る瀬なく消えていった。
そんな、
今日であり、昨日であるような、
時間の延長線上に今の自分の暮らしはある。
8月はそんなことを深く考える機会が多い。
世界は相変わらず狂っていて、
自分さえよければいい、
という人間の心の弱さが、
今も弱い人たちを虐げ続けている。
場合によっては、事情によっては、
虐げている側も虐げられていた過去があったりして、
憎悪の連鎖を許しがどこかで断ち切るのはとても難しい。
憂うだけなら簡単なことで、
何もできない自分を今日もまた思い知るだけだけど、
せめて、自分の意思だけは持っていたい。
そのために、出来るだけ知ろうとしていたい。
暴力は間違っていると思います。
色んな人を乗せて回る世界で、
ひとつの命として、
自分はその手段に抗議します。
HIRAI Yuta(CRAB WORKS)
https://crabworks.jp
一度も訪れたことのない土地の人々の暮らしを慈しむ
2001年9月11日現地時間午前、ニューヨークの世界貿易センターに民間機が突っ込んだ。私は大学時代の友人が企画したダンス公演で作品を発表するため数日後に渡米を予定していた。
渡航を控えた2001年9月11日の夜、旅の準備などをしていると、夜の報道番組を見ていた父が血相変えて私の部屋に飛び込んできた。テレビの前に連れてゆかれると、高層ビルが煙に包まれていた。その後、世界貿易センタービルに2機目の航空機が衝突しビルが崩壊してゆく映像が何度も流され、ペンタゴンにも旅客機が衝突したとか、まるで映画の世界のような現実が報道されたのだった。
ダンス公演を企画した友人にすぐ国際電話をしたが、彼女は西海岸に住んでいたので、まだ早朝で寝ていて何も知らなかった。彼女は引っ越したばかりでケーブルテレビの契約がまだだったので、すぐにニュースが見れなかった。Twitterなんてない時代。
「とにかく今すぐ起きて、どこでも良いからテレビを見れる場所に行って、WTCに飛行機が衝突するニュースを見てみてから電話ちょうだい!」
次に電話で話した時、友人は気が動転していた。飛行機が飛ぶのか、入国できるのか、アメリカは安全なのか、公演はできるのか、全く状況が分からない。
翌朝、航空券を購入した旅行会社から電話がかかってきた。「お客様、予定していた航空機がスケジュール通りに運行されるか分かりません。キャンセルの場合は全額返金します。」と伝えられた。アメリカ全土で航空網がパニックしていた。人々もパニックしていた。家族の反対もあり、結局渡航は断念した。「TRADEWINDS Dance Project – 舞踊東風」と題したダンス公演は、日本と韓国のダンサー不在で開催された。ゲストがドタキャンになり、全米がパニックする中で、友人は苦労したに違いない。
10年ほど経った時に「今ならどんな状況でも、公演をやるなら、行きたいし、この目で現実に起こっていることを確かめたい」と切に思った。20年経ちコロナ禍の現在は「どんなことがあっても絶対にやらなければいけないことは何なのだろう」と考える。
911のあと、ブッシュJr.が「悪の枢軸」とか言って、アフガン侵攻して、イラクにも侵攻して、ますます世界はテロに怯えさせられるようになった。そして今年撤退のカウントダウンが始まり、8月31日にアフガニスタンから米軍が完全撤退したと報道された。何のための侵攻だったのか、何のための20年だったのか。私はアフガニスタンは訪れたこともないし、全然分からないのです。どんな食事をしてるのか。どんな歌を歌うのか。私たちは人種や言語の違いがあっても、愛する人を失う悲しみや、初めて孫を抱く時の幸せなどはともに語ることはできると思う。そう信じたい。私たちは同じ人間なのに、どうしていつも争うのか、ずっとずっと子供の頃から疑問だった。多少喧嘩しても、殺戮までするような争いはできるだけ無い世界になって欲しい。一歩ずつそんな理想に近づく、ポジティブなカウントダウンを想像することにする。
MIYAKITA Hiromi
https://miyakitahiromi.com
カウントダウン
ステージ上に映し出されたカウントダウン。
会場の観客は、思い思いに、その数字が0になるのを待ちわびる。
60秒前、30秒前、いよいよ会場内のざわめきが大きくなる。
10秒前、もう居ても立っても居られない、と座席から立ちあがり、声を揃えてその時を迎える。
10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0
歓声の中で暗転する会場、ステージ上に現れる人影、1曲目が鳴り始めた瞬間の音の圧。
私はライヴに行くのが好きだ。
特に、いよいよライヴが始まる、というこの時間がたまらない。
期待と緊張に満ちた、無条件にワクワクソワソワする時間。
日常では感じられない興奮。
ライヴの始まり方はアーティストによってそれぞれだけれど、私が年に一度は必ず観に行くバンドのライヴでは、開場から開演まで、会場のスクリーンでカウントダウンがされていて、いよいよ始まる、というワクワクをより一層煽ってくれる。
手を上げ、体を揺らし、まわりと一緒になってとにかく歌って飛び跳ねる時間は、最高に気持ちがいい。
何も考えず、ただただこの身を取り巻く音に飛び込む。
かと思えば、私はライヴ中、結構色々なことを考えたりもしていて、アツいMCを聞きながら、自らを振り返っていたりする。
せっかくなのだから、自分の日々の不甲斐なさを省みるより、今この時間を楽しんだ方がいいんじゃないかとも思うのだけれど、それだけステージに立つキラキラした姿に刺激を受けているということで、それはそれでありなのかなと思ったりもしている。
色んなことを考えながら、大声で歌って、体を動かして、ライヴハウスなんかだともみくちゃの汗だくになりながら、日々の感情を吐き出して、そしてまたエネルギーを得て帰る。
ライヴは間違いなく、私の生きる糧になっている。
とはいえ、このようなご時世なので、ここ最近はもっぱらオンライン配信で楽しんでいるのだけれど、これはこれでまたいい。
まず何より、チケットに落選することがないし、アーカイブ配信の期間内であれば、いつでも都合のいいタイミングで観ることができる。
観客の声の入らない、素の演奏を楽しめるのもいいし、演奏している手元や表情をゆっくり観られるのもいい。
ライヴ会場に行って観るのとオンライン配信とでは自分の中の満たされる部分が全く違っていて、それぞれに楽しみながら、改めて、自分は何を求めてライヴに行っていたのかに気付かされた。
早くまた行けるようになったらいいなぁと言うのにも飽きてきた、今日この頃。
まだしばらくライヴへのカウントダウンは切れそうにないけれど、少しずつ涼しくなってきたし、とりあえず今は、次に行くときに思いっきり楽しめるように、体力作りをしておこうか。
MORI Atsumi
元・丹後在住。現在は京都市内でデスクワークの日々。
編集後記
誰かの心に残る広告をつくりたい。
最近、とてもそう思うようになってきた。
一本のキャッチコピーに魅せられて、広告業界に入る人は多い。
わたしもそうだ。
コピーは書けないけれど、誰かの心に刺さる広告がつくりたくて、この業界に入った。
コンペで賞を狙うことも大事。
評価されることも大事。
でも、その根本にある「つくる動機」を忘れないでおこうと思う。
自分が心からつくりたいと思ったもの、人に届けたいと思った気持ちを、しっかりと作品に込めていきたい。
2021.9.1 KAWAGUCHI Yuko