MOON vol.17 / 歳暮 / #E3DDD8

− 歳暮 −

Contents

◆ お歳暮/KAWAGUCHI Yuko
◆ 「歳暮」/HIRAI Yuta
◆ 今年の感謝/MIYAKITA Hiromi
◆ 一年のおわりに/MORI Atsumi


お歳暮


子どもの頃、ピアノ教室の先生に、お歳暮を持っていった記憶がある。正確には、「お歳暮を持たせてもらった」記憶だ。わたしは、親から手渡されたものをそのまま渡すだけだったが、今思うと、ただの建前ではなく、そこにはちゃんと、「お世話になりました」という感謝の意味が込められていたんだなぁと感じる。人と人とのつながりの中で、感謝を示すひとつの印。自分のお金で誰かに贈り物をできるようになった時、その気持ちをリアルに実感することができた。

人に感謝を伝えるのが照れ臭い、という人がいる。私の場合、そこに恥じらいはないタイプなので、「ありがとう」の言葉を日常的にどんどん使う。「ありがとう」と伝えたら、「こちらこそ」と返ってくる。そんな日々のコミュニケーション。引き続きコロナと戦った2021年。オンラインで知り合った関係でも、対面と同じように信頼関係が築けることも知った。「今年もお世話になりました」と、お歳暮を贈りたい人はたくさんいる。そう思える自分が、幸せだと思う。

オンライン飲み会で心癒やされた1月。
ひたすら仕事に取り組んだ2月。
まちのローカルメディア『TanTanPocket』をスタートさせた3月。
受講した講座で、ほぼ毎晩オンライン打ち合わせが始まった4月。
引き続き、毎晩オンライン打ち合わせに明け暮れた5月。
オンラインで知り合った仲間と、コンペにチャレンジしはじめた6月。
ほとんど人と会えなかったが、制作活動で毎日があっというまだった7月。
同じく、制作であっというまに過ぎていった8月。
6月にチャレンジしたコンペで、賞をもらった9月。
緊急事態宣言が開け、『TanTanPocket』メンバーとはじめてリアルミーティングした10月。
少しずつ人と会える雰囲気になって、久しぶりにランチに行った11月。

こうして振り返ってみると、今年はほぼ、仕事と制作しかしていない笑。なんとデザインに明け暮れた一年だっただろうか。目の前の制作に夢中で、他のことには無頓着。自分が今年本厄だと気づいたのも、つい先週のことだ。それくらい、やりたいことだけに全力で取り組めた一年だった。いやいや、改めて幸せだったなと感じる。

今年も残り1ヶ月。まだまだやれることはたくさんある。つくりたいものもいくつかある。今年を悔いなく生きるため、年明けまでのカウントダウンを楽しみたい。

今年は生け花にもハマりました

KAWAGUCHI Yuko


「歳暮」


4月のある日の早朝。
「ちょっと相談のってくれません?」
と、あいつからのメッセージを受信した。

猛烈に嫌な予感しかしなかったので、
今日のところは電話で話を聞いたりするのをやめとこうと、
適当な相槌でごまかし、1日泳がしてみた。

翌早朝。
「まだねてます?」
とのメッセージのあと、
返信が待てなかったのか電話がかかってきた。

聞くと、昨日からずっと寝てないと言う。
今から思えば、あの時が瞬間最大風速。
そして、嫌な予感は的中。
そこから、あいつの企画にどっぷりと付き合って、現在に至る。


でも、どんな企画だったかは話すことができない。
「作品を公開しない」という判断を、最終的にあいつがしたから。

ただ、それは決して後ろ向きな決断ではなかったと思う。
最後の最後で唯一と言っていいかもしれない、
あいつは、自分以外の人の立場に、自分の想像力を立たせた。
まぁギリギリ、監督、と呼んでやってもいいかな、と思う。

そして、作品は間もなく完成する予定。
当初の予定だった、世の中に向けての公開はなくなったけど、
今月中に、届けるべき人にだけその作品は届くだろう。
それはそれで、いい物語だなと思う。


今回の挑戦と決断を、失敗とは思わないでほしい。
だけど、大いに失敗した、とも思っていてほしい。
あいつには、その両方を行ったり来たりすることが必要だと思う。

そして、関わってくれた人、
自分のために力を貸してくれた人たちのことを、
ずっと忘れないでほしいし、これからも深く関わり続けてほしいと思う。
(自分とは、そろそろ浅い関係にしてもらって大丈夫です)

この企画を通して起きたこと、
忘れないように、ちゃんとメモしておけよ。
メモしたこと、ちゃんとこれからに活かせよ。

作品の完成まであと少し、最後まで気を緩めるなよ。
自分以外の人のこと、ちゃんと想像せえよ。


後々、二◯二一を振り返ったときは、
やっぱあいつの顔がいちばんに浮かぶんだろう。
散々な年だ。

お歳暮なんて要らないから、
打ち上げだけはしてくださいよ、監督。


HIRAI Yuta(CRAB WORKS)
https://crabworks.jp


今年の感謝


最近はその日1日を振り返って楽しかったことや、良かったことを3つ書き出すことにしています。変わらぬ日常にも楽しいことは必ずありますし、気分を害してしまった時は心のメンテナンスができます。一年の振り返をする12月に今年深く感謝したことを振り返ってみましょう。

梅雨の頃に怪我をしてしまい不自由な時間を過ごすこともありましたが、良い理学療法士とトレーナーの力添えで、無事に舞台公演を終えることができました。からだの内側への意識が研ぎ澄まされるのを感じると、自分のダンスをもっと進化させることができるんじゃないかと思えるようになります。今もリハビリとトレーニングを続けており、怪我をする以前に比べて理解が深まり身体が整いました。

骨や筋肉や内臓のほかにも、意識や感覚など、自分の身体の内側には宇宙が広がっていて、目で見たり耳で聞いたりする外側の世界の広がりと同じくらい、内側にも世界(宇宙)が広がっていることを感じます。一人では、そんな次元に辿り着けなかったと思うので、数ヶ月伴走してくださった理学療法士とトレーナーさんにはとても感謝しています。

ダンスとアートの仕事をする上で、パフォーマンスや展示などは氷山の一角で、ほとんどはトレーニングや制作、細々とした事務業務や渉外をこなしてゆく量の方が圧倒的に多いです。いつも同じ人々と仕事をするわけじゃないので、相手の性質や距離感を探っている間に仕事が終わることもよくあります。そんな感じですが、今年は仕事の進め方や人柄から学ばせてもらった2人の女性に出会えました。粘り強くプロジェクトを進め、関わってる人々の感情をうまく汲み取り、新しいことにも挑戦するのです。仕事のメンターを自分の中に秘めて持ってると、迷った時や落ち込んだ時に助けられます。

3つ目の感謝は残りの1ヶ月でじっくり考えます。たくさんのありがとうがあることを思い出しながら。


MIYAKITA Hiromi
https://miyakitahiromi.com


一年のおわりに


京都市内は、今が紅葉の盛り。
戻ってきた人出に混ざって、今年は私も紅葉狩りを楽しんでみた。
ベタなものや場所を避けていた時期もあったけれど、多くの人に支持されるものには、やはりそれだけの理由があるんだなと、最近は思うようになった。
肌寒い中、明るい色の葉は、目に入る景色の温度を上げてくれるようだった。

さて、気づけば今年もあとひと月。
すっかり薄くなった壁掛けカレンダーを眺めながら、今年はどんな1年だっただろうと考える。
が、どうもこれといったことが浮かばない。
外出や人と会う機会が少なく、起伏の少ない1年だった気がする。
かといって、色々と勉強しようと思って買った本たちも、積読になっている。

別に、年が変わっても毎日は続いていくのに、区切りを作られると、つい、今年1年の取れ高を考えて、焦ってしまう。
家の中でだらだらと過ごした休日の夕方のように。
そんな休日は、その日にできたことを考えるようにしている。
お昼まで寝て体をゆっくり休められたなとか、見逃し配信で観たあのドラマがよかったなとか。
大したことはしていなくても、ちゃんと何かを得ていることに気づく。

今年できたことを考えてみる。
読んだ本、マンガ、新聞や雑誌のちょっとしたコラムやエッセイ、お気に入りのドラマや映画。そこで出会った色々な考え方や、たくさんの言葉。
展覧会で観て、引き込まれた絵。
おいしかったお酒に料理、交わした会話。
紅葉よりも、私はやっぱり青いモミジの方が好きだな、と気づいたり。
新しい音楽に出会ったり、学生の頃に聴いていた曲に改めてはまったり。
ふと目に入った空の色がきれいだったこと、風が心地よかったこと。
心に残っているものを思い浮かべると、劇的なことは起こらなくても、目や耳にしたもの、触れたもの、考えたことは、少しずつ積み重なって、去年の自分より豊かな自分になっていると感じる。

また、何といっても今年は、こうして月に一度、文章を書いて、それが誰かの目に触れているということが、大きな刺激になった。
今月も何とか期限までに原稿を提出できることに、ほっと胸をなでおろしつつ、今年もまだひと月残っていることなので、悪あがきをしようかなと、とりあえず本を1冊、カバンに入れた。


MORI Atsumi
元・丹後在住。現在は京都市内でデスクワークの日々。


編集後記


メイン写真は、11月19日の部分月食のものだ。皆既月食に近いこの状態が日本で見られるのは140年ぶりという奇跡。わたしのエントリーモデルの一眼レフでは、このレベルが限界だったが、わたし的には、とても輝いてみえる。

今年もあと1ヶ月。師走に踊らされないよう、忙しない日々だけど、着実に歩いていきたいと思う。

2021.12.1 KAWAGUCHI Yuko

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