MOON vol.9 / スパイス / #FFDCDC

− スパイス −

Contents

◆ 春のスパイス/KAWAGUCHI Yuko
◆ 「スパイス」/HIRAI Yuta
◆ 庭の恵み/MIYAKITA Hiromi
◆ スパイス/MORI Atsumi


春のスパイス


今年も、桜の季節がやってきた。ぱっと咲いてぱっと散る諸行無常の趣に、人生を投影する人も多いように思う。私もその一人。美しいのに潔い、なんともかっこいい花だと感じる。

春こそ、刺激が欲しい。年度が変わるというのもあるが、何かをはじめるには、いいタイミングである。

最近、あるデザインに関する講座をオンライン受講しているのだが、その中で、「ペアを組んで作品をつくる」という課題がある。オンラインが日常になってきた昨今、ビジネスにおいてオンライン上のみでコミュニケーションを図らなければならない機会が増えてきた。この講座もそうだ。見ず知らずの人と、課題のため、オンライン上でアイデアを練りながら打ち合わせを重ねる。課題の期間は2週間。日によっては、課題以外の会話もする。雑談することで、相手がどういう人か、どういう作品を求めているのか、などの「人となり」を知ることができる。共感できる話や似ている境遇があると、一気に心の距離が縮まる。そうして知ったお互いの個性を、作品に反映させていく。

これが私には、いい刺激になっている。課題自体が日常の仕事では味わえないジャンルのものであるということに加えて、広く同じデザイン業界とはいえ、全く違う場所とスタイルで仕事をしている人と一緒に作品を作り上げていくという作業は、発見の連続である。少しでもいいものをつくるため、課題の目的と意図を何度も何度も整理する。年度末で仕事も忙しかったが、デザイナーとしての意地と覚悟で、もてる時間のすべてを費やした。提出してみると、とても有意義だったと感じる。あぁ、満足だ。(ちなみに、講座は後7ヵ月続きます)

刺激は、自分でつくるものであると思う。もちろん、自分の計算できないところでおこってしまう刺激も多々あるが、「いい刺激」は、自分で作り出すことができるはずだ。

春。人生の船出を迎える友達が数名いる。敬意を払うとともに、私も自分のできることを楽しみたいと思う。
諸行無常を、嘆きではなく、スパイスだと捉えて。
今年の桜もあと僅か。しっかりと味わいたい。

KAWAGUCHI Yuko


「スパイス」


出会いから刺激をもらってきた。
今日まで生きてきて、
自分を強く揺り動かしてきたのは
いつも誰かとの出会いだったと思う。

だけど、自分は、ちゃんと別れてこなかった。
そんな別れを多く作ってきてしまった。
原因はすべて自分本位の小さな心にあった。
別れを急ごうとしたり、
自分だけを守ろうとして取り繕った口実は、
時間が経つと簡単に剥がれる。
剥がれた跡に立つ情けない面構えの自分と目が合う。
あのときの自分は、もうあそこから動くことはできない。

出会ったら、いつかは必ず別れなければならない。
その理は変わらない。
だけど、人の縁はそう簡単には切れるものではない、
ということも実感している。
生きていれば、思わぬ形でまた巡ってくることもある。
自分が思っているより、
自分のことを思ってくれている人もいたりする。

別れにはちゃんと自分から向き合わないといけない、
と省みている。
それが自分にとって必要な別れだった場合は、
なおさらそうだと思う。
そして、不意に訪れてしまう最期の別れもある。
そんな理不尽にもちゃんと向き合う方法はないものかと、
考え続けている。


HIRAI Yuta(CRAB WORKS)
https://crabworks.jp


庭の恵み


ハーブは良い香り、スパイスは辛いイメージを持っていましたが、厳密には違いは定義できないようです。ハーブもスパイスも香りや色や風味を味わうものですが、どちらも植物の葉、花、根、茎、種など、用途によって用いる部分もそれぞれです。人々は古代からハーブやスパイスを利用していましたが、黄金よりも香料やスパイスの方が高価だったようです。そのような背景もあるのか、かつて地中海沿岸の国々や欧州がインドなど東方から手に入れていた胡椒やクローブのようなものをスパイスと呼び、栽培できるものをおおむねハーブと呼んでいるようです。

昨年から精油の効能や香りのことを少しずつ学んでいるのですが、春になり庭の手入れの季節となったので、今年はハーブの苗を色々と植えました。前から育てていたローズマリーが旺盛に花を咲かせ、ペパーミントの緑も鮮やかです。ローズマリーが伸びすぎたので剪定し、落とした枝葉は蒸し煮してお風呂に入れて薬草風呂にすると、香りに癒やされ、お肌もつるつるになります。ローズマリーとミントの自家製ハーブウォーターを楽しむ季節になりました。枝から落ちてしまった桜を添えて。

今年お庭に仲間入りのスパイス・ハーブ #1
コリアンダー

今年仲間入りのスパイス・ハーブ #2
ヤロー(ノコギリソウ)

ほかにもいろいろと仲間入りしてくれたスパイス・ハーブがありますが、良い写真が撮れなかったので、お花が咲く頃や、お茶になる時などにお披露目したいなと思います。


MIYAKITA Hiromi
https://miyakitahiromi.com


スパイス


スパイス
刺激を与えてくれるもの
体を温めてくれるもの
豊かな風味を楽しませてくれるもの
時に痛みを伴うもの

私がスパイスと聞いて真っ先に思い出すのは、花椒がよく利いた麻婆豆腐。
何年か前に、阿蘇海のそばの中華料理屋で麻婆豆腐を食べたとき、花椒の舌が痺れるような辛さと、鼻を抜ける爽快な香り、だけど決して辛さだけじゃない、しっかりとした旨味に、衝撃と感動を覚えた。
インスタントの麻婆豆腐の素で作ったようなのしか食べたことがなかった私は、それ以来、中華料理の店に行くときは必ずと言っていいほど麻婆豆腐を頼むようになった。

丹後にいた3年間は、日々がたくさんの「スパイス」で彩られていた。
たくさんの初めて食べるおいしいものに、見たことのないような美しい景色。
たくさんの人に会って、それぞれが色々な考えを持っていて、行動していて。
あちこちで開催されているイベントに足を延ばして、時には自分も運営する側になって。
上手くいかないことや嫌な思いをすることもあったけれど、それらはまるで花椒の利いた麻婆豆腐のように、私の五感に刺激を与え、興奮させ、衝撃と感動を与えた。

ここしばらくの私の日常には、そんなスパイスが足りなかったのかもしれない。
代わり映えのしない、よく言えば安定した日々。
でも、心のどこかで、私はずっと一生このままなんだろうかと漠然とした焦りを感じる日々。

何がスパイスになり得るかというのは、自分から求めていくと、結構難しい。
前に感動したものでも、慣れてしまうと前ほど心拍数は上がらなくなるし、そのときの自分の体調やメンタルの状態によっても違ってくる。
一方で、不意に、予期せぬところからヒットが出たりもする。

スパイスには、食べ物を長持ちさせる役割もある。
いつまでもハリのある心でいるためにも、スパイスが必要。

さあ、4月から仕事内容が変わる。
新たな出会いもたくさんあるだろう。
願わくば、心身を刺激に耐え得る健全な状態に保ち、スパイスに満ちた日々にしたい。


MORI Atsumi
元・丹後在住。現在は京都市内でデスクワークの日々。


編集後記


最近、発信することの重要性を強く感じている。情報が溢れている今だからこそ、届けたいことを、届けたい人に届ける術を模索する。必要だと思われること。MOONも、そんな存在でありたい。

2021.4.1 KAWAGUCHI Yuko

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